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1978年型モトグッチがサーキットを駈ける! 04・7・22

 私の所属するというより、仲間に入れて戴いている、模型もつくるクラブ「不老隊」の松永隊長は、自分の仕事のかたわら農作物を作ってみたり、1:72シャーマンをつくり込んだり、そしてバイクモデルは1:1のレーシングマシンを筑波や岡山TIサーキットに持ち込みコンマ以下のタイムを詰めることに挑戦を続けています。使っているマシンは決して戦闘力の高いものではありません。しかし好きなマシンでその時代に熱い想いを巡らせながら、サーキットを駈ける姿は素晴らしい事ですね。
今回、松永隊長にレース参戦記をお願いしました。タイトルを含めて全て原文のままです。 しばたかずや


 
汝ら 我をくぐらんとする者 一切の望みを捨てよ

ダンテ・アレギェーリー「神曲 地獄編 第三歌」


岡山TIサーキット英田で行われたサンデーレース、「モトルネッサンス」の舞台裏、日常とはちょっと違うコンペティションの世界にご案内 しましょう。    
 2004年3月27日土曜日午前10時、場所は岡山TIサーキット英田のメインゲートをオートバイを積んだトランスポーターでたった今通過した所です。観客として来たのであれば、ここで左折して観客席側の駐車場へ、我々はそのまま直進し最終コーナーの下を通る暗いトンネルに入りパドックに向います。この暗いトンネルのゲートが平穏な日常生活の世界と1/100秒の差で勝ち負けがシビアに決まるコンペティションの世界との境界となります。

ほの暗いトンネルをくぐると、パドック独特の雰囲気に包まれます。


ずらっと居並ぶトランスポーター。
そこから降ろされ、暖気運転でレーシングされているマシンたち。シングルエンジンの野太いバリトン、ツインのテノール、四気筒エンジンの奏でるさながら「夜の女王」のごときソプラノの調べ・・・・・・
オイルの焼ける匂い・・・・・・


我々もトランスポーターから愛機1978年製造のMOTOGUZZI LeMans2を降ろします。
78年製と言ってもMOTOGUZZIのスペシャリスト、横浜のGUZZI SPORT JINGUSHIの手により現代的にモデュファイされており、公道走行の出来ない完全な競技車両にになっています。
LeMans1風のビキニカウリングをまとい、白いストライプの入った赤い燃料タンクに金色のフレーム。
第一次大戦後に行われた飛行艇のレース”シュナイダートロフィー”のイタリア艇をモチーフに色を塗られています。
エンジンは空冷ニ気筒のOHV(神宮司氏による徹底的なチューニングが施されています)をクランク軸縦置きで車体に搭載し、チエーンでなくドライブシャフトによって後輪を駆動させます。



 今回の出走クラスは決勝が一番遅い時間帯だったので、その時間帯に合わせて午後の練習走行枠を二本(一本30分)走ります。
天気予報でこの一両日は安定した天候だと判っていましたので、前日のうちに同じ時間帯を走り、日曜日の決勝に向けてオートバイのセッティングを完全にだしてやろうという作戦です。受付と車検を早々に終らせ練習走行の開始です。


過去のセッティング帳を見ながら、暖気運転の状態で最適と思われるキャブ・セッティングします。
「ギャイィィィーンッ!!」と澱みなくレヴリミットまでエンジンが回るのを確認した後、これからの実走行で実際にエンジンに負荷をかけて最適セッティングを探っていくのです。ピットクルーに「3周したらピットインをしてキャブの確認、必要とあればリセッティング、また3周でリアサスペンションの残ストローク量を確認,走行終了時に再びリアサスの残ストとフロントの残スト確認をしょう。」と作戦を練ります。


(これを書いていて、サーキット通いを始めた頃、マシンセッティングに煮詰まって困っていた時、この世界の先達の方に「セッティングはキャブを決めて・リアサスを決めて・フロントサス。この順番が基本で王道。迷ったらひとつ前の工程に返ってみなさい」と丁寧に教えられたのを思い出しました。)



練習走行開始です。
2月に行われた路面舗装の張替えでフラットな路面、ゼブラゾーンはまだタイヤのブラックマークが付いていない赤白の見事なコントラスト走っているだけでなんだかワクワクしてきます。
裏ストレートでの加速がチョット鈍いです。アクセル1/2開度付近の空燃費計もかなり濃い目に出ています。作戦で決めていた最初ピットインで左右の点火プラグを見ると電極が煤けています。ジェットニードルを一段薄めに調整してピットアウト。もう今度はピットアウトの時の加速から違っています。
また3周走りピットイン、プラグの焼け具合を再確認、(狐色に焼けています)リアサスの残ストはいつもよりちょっと残り気味でしたが、本番ではもっとアクセルを開けるので今のままでいこうということになり、再びピットアウト走りに集中します。


ペースが速くなってくると、タイトな切り返しのダブルヘアピンの脱出時、右のブレーキペダルとステップ。排気サイレンサーが路面に接地して、「シャリシャリ」いっています。
丁度3周目で走行終了のチエッカーが出てピットに返ってくると、ベストラップを更新してストップウォッチに1分54秒17の文字、右のステップは度重なる接地で頭の部分が無くなっていました。
ただリア、フロントともサスペンションは問題なしの状態。次の走行までの30分間でスペアのステップに交換してガソリンを再給油、速いペースで走っても接地をしないラインをみつけなければ・・・・・等と考えているうちに二本目の開始時間です。


「ブルッルッブルッ」と1分55秒を切った辺りから、高速S字のモスSで左にバンクした車体を右に切り返す時のきっかけで右ステップを蹴飛ばす時、マシンが身もだえを始めます。4速7000rpm辺りですから200km/hくらいの速度域でしょうか、このチャタリングが怖くてついついアクセルをパーシャルに戻してしまい、今ひとつスピードが乗りません。・・・・トホホ・・・一番タイムを削るのに重要な高速セクションなのに・・・・・・一度ピットインしてステアリングダンパーをノッチひとつ重くなる方に調整してピットアウト、それでも症状が消えず・・・。しょうがない、このまま行こうと腹を決め、55秒の前半から54秒の後半のタイムで周回し、身体も眼もスピードにしっかり慣れたので、明日のためにタイヤを温存し、チエッカーの出る前に早めに走行を終了。


ピットに戻って見ると、新品だったタイヤも一皮むけて丁度いい感じでした。
私たちのするべき事は何のトラブルもなく粛々と進みます、こんなレースも珍しいことです。練習終了後、ピットの中を明日に向けて片付けをして、私と共に頑張った愛馬に「ご苦労さん」の意味を込めて、走行中に付いた虫、ブレーキダスト、オイル汚れを丁寧にふきとり、明日の本番のため、お化粧とばかりワックスを使ってピカピカに磨いてやります。明日は10時50分から予選が始まります。

日曜日の午前8時30分、いつもと比べて2時間は遅いスタートです。


いつものお仕事の始まりです。温度計を見る・タイヤの空気圧を量る・タイヤウォーマーを巻き、ガソリン券をもってスタンドにガソリンを買いに行く。マシンの給油が終ると、暖気運転。予選30分前には、皮ツナギに身体を詰め込んで柔軟体操。予選前と決勝スタート前は、何度もレースに出て経験を積んでもプレッシャーで吐きそうになる。


参加マシンがピットレーンで二列縦隊整列、コントロールタワーからグリーーンフラッグが振られ、オフイシャルに導かれ1台づつコースに入っていく。今回はエントリー台数が少ないため水冷エンジン搭載マシンとの混走のレースだ。僕の目の前にNEWトライアンフ・ボンネビルのレーサー。これまた本当にカッコイイのである。ワンオフのロングアルミタンクにメガフォンマフラー、京浜のFCRキャブにAJS7R風のビキニカウルとレザーシート、ネオレトロとはこのことです。いいペースメーカー見つけとばかりくっいての走行です。
高速セッションでは僕のほうが速く差がぐっとつまり、インフイールドではトラの方が速く、詰まった差がまた開いていく、「こりゃひょっとすると、決勝でもバトルになるかも・・・・」と思い真剣にトラのラインを後ろから観察する。前走のトライアンフの無理のないコーナーリングラインをなぞって走っていると、ピットボードに自己ベストの1分53秒8の数字がでている。走っている私が見つけ易いようにと、表示タイムの下に数字をつくる細長いマグネットでカニの絵が作ってある。タイム計測をお願いしたスタッフに今冬、松葉蟹をご馳走したカニの絵のようです。(笑)


予選結果を見ると、自己ベストをだしたのに28台中の22番手・・・もうグレそうになります。今回は1分55秒を切れない人がほとんどエントリーしていない、空冷ツインクラスってこんなんじゃないんだけど・・・・(混走レースのため空冷クラスでは14位)前述のトラはコンマ7秒前で19番グリッド、ひとつ前には銀色メッキのMOTOGUZZI・1100Sport、ふたつ後ろにこれまた黄色の1100Sport、グレそうだったさっきの気分は何処へやら、俄然やる気になりました。


やはりスタート前には胃から酸っぱいものが上がってくる。
スタート1分前、エンジンを始動しピットクルーがコース上からピットへ駈けていく。オフシャルが黄旗を振り下ろしウォームアップラップの開始、スタート練習もうまく決まり、1コーナーでちゃんとパワーオン、タイヤの右半分を暖め、2コーナーで左半分、裏ストレートでは真ん中、インフイールドでも気を抜かず後はグリッドまでタイヤを冷やさないように蛇行しながらスターティンググリッドにつきます。
グリッドに着き、赤旗を持ったオフィシャルがピットウォールの向こう側に退避後、レッドシグナルが点灯。エンジン回転を上げすぐ2速にチエンジできるようにペダルの下につま先を入れ、半クラッチになるスレスレのところでクラッチレバーをホールド。

シグナルオフ!!  スタート!
丁寧にクラッチをミートしながら7000rpmで2速にアップ、アウトよりのラインを選択し1コーナーにアプローチ。トライアンフ、銀色GUZZI、黄色GUZZIもすぐ目の前、すると1コーナーの立ち上がりでトライアンフが大きくテールスライド!!!、転倒は免れたもののトラは大きく振られ、我々の集団は真っふたつ。先行組の中には銀色GUZZI、減速組のなかにはトラ、黄色GUZZI、僕、まずこの集団から抜けて銀色GUZZIを捕らえたい・・・

 

以下の写真は、同じライダー仲間で広島在住の立川義彦さんから提供されました。


見える範囲での順位ではトラ、黄色GUZZI、ニコちゃんマークつきのDUCATI748R、私の順番である。
2周目のモスSの進入でニコちゃん748にしかけるが、相手の脱出加速が速く走行ラインが交差、ここでは私が引き、次のアウトウッド・カーブの進入でインに飛び込みひとつ順位を上げる、裏ストレートでこの前を走っている黄色いGUZZIに張り付き、トラ、黄色GUZZI、私の順位。このまま2周したのち黄色GUZZIがその前のトラをパス、同じ周回の最終コーナーの立ち上がりで、私もエンジンパワーに物言わせてトラを脱出の加速で抜くとメインストレートでそのまま黄色GUZZIのスリップストリームに入り次の1コーナーで仕掛けます。


しかし相手の方がブレーキングが上手いぃっ!!。ストレートの加速がのった最終部分で横に並びましたが、ブレーキングでは前に出してくれません。スゥーと前にかぶせられてしまいます。このままくっついて半周、インフィールドのパイパー・コーナーで再びティル・トウ・ノーズ、次の短いストレートで前走ライダーが振り返りすぐ後ろにいる私を確認する。そのままの順位でコントロールラインを通過し、次の周回の同じパイパー・コーナーで一気に差を詰めるやめアウトの白腺からイン側の縁石ギリギリにラインを取り、立ち上がりで半車身差までつめて加速をかけている時、彼がまた振り返った!!


ほぼ横にいる私を見て、ヘルメットバイザーの奥の眼が「あっ!!」と言っていました。こっちはそのまま次のダブルヘアピンの進入でイン側のアプローチライン、縁石に左のツナギのバンクセンサーを「ガッガッガッ!」とヒットさせながら旋回してやっとのことで抜けました。
こうなるともう私にとっては前に追いつくためにも、今抜いた後ろのライダーに抜き返されないためにもアクセルを開けるしかありません。



メインストレートに返ってくると先行組が1コーナーに入っていくのが見えます。必死に追い上げましたが次の周回がラストラップ、前の組にはかなり追いつきましたが此処でチェッカー、後1周欲しいレースでした。銀色GUZZIは捕まえられず・・・・・・・

正式なリザルト表で確認すると最終ラップに1分53秒248の自己ベスト、順位は11位で二桁台でした・・・・・次回はもっと上に、と固く心に誓いました。




我々のレースガ最後のクラスだったので片付けが終わり大会本部にリザルト表をもらいに行く頃には、すっかり薄暮時。
「またね!」「失礼します」「おつかれさま」の声を聞きながら、テールランプの点いたトランスポーターが一台また一台と帰宅の途についてゆく・・・・・・・
私も祭りの後の閑散としたパドックを後にし、あの暗いトンネルをくぐり抜け、今回も運良く怪我もなく日常世界への帰還を果たすことができました。家まで100km、いつもの暗い峠道がホンの少しだけ明るく感じた帰路でした。

 

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